2022.05.01 No.262「初めてのポークカツカレー」
今回は45年前に両親に連れられて東京八王子市のレストランで食事をした時のお話です。幼い頃、家族で外食をする機会は殆どありませんでした。ですからこの時のことは今でも鮮明に覚えています。朝早く上田を出発して八王子まで一人で運転をする父の横でこっくりこっくりと居眠りを続ける母。カーステレオからはムード歌謡曲がエンドレスで流れていました。父の車で出掛ける時はいつも同じテープを聴かされたため、ムード歌謡曲が口ずさめるようになったほどです。当時はカーナビなどありませんから、地図を見ながら目的地に向かわなくてはなりません。この日は途中何度も道に迷ったため長旅となり父も疲れ切っていました。八王子に無事に到着したのは午後三時過ぎ。親戚のお宅に向かう前に近くのレストランで遅い昼食をとることになりました。両親は庶民的な食堂に行きたかったようですが、近くにはレストランや喫茶店しか見当たらず、仕方なく大通りに面したレストランを選んだようです。鉄骨作りの狭い階段を上がり、ピッカピッカに磨かれたガラス扉を開け店内に入ると、四人掛けテーブルが6席ほどありました。ランチタイムはとっくに過ぎた時間帯だったので店内はガラガラ。二十歳ぐらいのキレイなウエートレスさんに席を案内され、着座すると保険証券のファイルのような分厚いメニューを差し出され、それを開くと初めて知るようなメニューがズラリと並んでいて、何を頼んで良いか迷ってしまいました。そしてお値段もなかなか。しかし子どもは親の懐事情などお構いなしです。母が「マサユキ、カレーでいいかい?」と尋ねるも返事をしない私。それはメニューにあるポークカツカレーが気になっていたからです。「カレーの上にカツがのっているなんて豪華だなぁ。こんな時しか食べられないだろうから注文しちゃおう。」私はもじもじしながらウエートレスさんに「ポークカツカレーをお願いします。」と注文をしました。一緒にクリームソーダも頼みたかったものの、母の険しい表情を見てそれは断念。店内でおとなしく待つこと15分。「お待たせしました!!」とウエートレスさんが出来たてホヤホヤのポークカツカレーを持ってきてくれました。一目見た瞬間、母が作るじゃがいもとニンジンが入った我が家のカレーとは全く別物だと感じました。「これは絶対に旨いカレーだ。」一口食べると予想通り!!レストランのシェフが作る本格カレーはコクがあって旨かった。不思議なことにカレーにトッピングされていたポークカツのことは一切記憶に残っていないんですよね。45年経った今、まかないカレーを作る度にこの時の思い出が蘇ってきます。